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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12351号 判決 1970年1月28日

原告 桜井克己

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 渡辺太郎

被告 鶴屋商事株式会社

右代表者代表取締役 柳政光

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 田中登

右訴訟復代理人弁護士 藤原寛治

同 小池健治

主文

被告らは連帯して原告桜井克己に対し金四四万二九三九円、原告桜井恵美子、同桜井かつえ、同桜井正己に対しそれぞれ金三三万一九五九円および右各金員に対する昭和四三年三月二五日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その三を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項中(一)ないし(四)、(六)の事実および(五)のうち加害車が亡はる江に衝突したことは当事者間に争いがない。

二、(責任原因と過失割合)

(一)  被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  被告小島の過失について按ずるに、≪証拠省略≫によれば、本件事故現場附近の道路状況は、東京方面から水戸方面へ通ずる国道六号線の幅員一一米のコンクリート舗装で、一部に私設歩道のある箇所もあるが歩車道の区別はなく、直線コースで見透しは良好であり制限速度は時速六〇粁であり、右国道と、幅員三米の六郷方面へ通ずる道路および幅員約七米の小浮気部落方面へ通ずる道路とが斜めに交差しており、交通信号の設置はなく交通整理も行なわれていないこと、公安委員会の設置した横断歩道はないが地元交通安全協会が任意に設けた横断歩道の標示が路面にあること、事故当時は降雨のため道路は湿っていたこと、亡はる江の歩行して来た小浮気部落方面へ通ずる道路と国道六号線との相互の見透しもよいところ、被告小島は降雨中であるにも拘らず前面のワイパーを作動させずに、制限速度を超える時速約六五粁で国道六号線を東京方面から水戸方面へ進行中、進路左の小浮気部落へ通ずる道路から丁度国道六号線に進入する亡はる江を約一九・六米前方に発見して危険を感じ、警笛を鳴らすと共に急制動の措置をとりハンドルを右に切ったが、間に合わず亡はる江に加害車左前部を衝突させたことが認められる。

以上の諸事実によれば、被告小島にはワイパーを作動せず前方を充分に注視しなかったことおよび制限速度を遵守しなかった点に過失があり、被害者亡はる江には前方および右方の安全を確認しなかった過失があり、その割合は亡はる江の過失一に対し被告小島の過失九を以て相当と認める。

三、(損害)

(一)  葬儀費等

請求原因第三項(一)の事実は当事者間に争いがない。そして右支出額が一七万一四五五円で、葬儀費として一般的に是認される二〇万円のほぼ一割減であることに鑑み、本費目については過失相殺はしない。

(二)  被害者の逸失利益とその相続

(1)  ≪証拠省略≫によれば、亡はる江は大正九年六月生れであることが認められ、したがって昭和四三年三月二五日当時は四七歳である。厚生省第一二回生命表によれば、四七歳の女子の平均余命は二九・五一年であることが認められ、原告克己本人尋問の結果によれば亡はる江は家庭の主婦であったことが認められ、特段の事情について主張立証はないので、同女は本件事故に遭遇しなければ満六〇歳まで一三年間は主婦として労働可能であったものと認められる。

ところで、主婦の家事労働は無償労働ではあるが、主婦が死亡した場合の逸失利益の賠償は、現実の収入の喪失と考えるべきではなく、労働能力そのものの喪失の損害の算定に当っての算定方法として逸失利益を考慮しているものであるから、無償性を理由として主婦の逸失利益を否定することはできない。ただ、それを金銭的に評価するに当っては、その家庭の個別的事情に応じてその具体的な量と質とに即してその経済的価値を測定するのが妥当である。

原告克己本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、本件事故当時は、同原告は日立製作所戸塚工場に勤務していた関係で荏原インフルコに勤務していた長女の原告恵美子と東京都品川区に間借生活をしており、茨城県の肩書住所地には亡はる江と次女の原告かつえ(当時大学生)、長男の原告正己(当時高校生)が生活しており、亡はる江は主婦として日常家事をしながら農業をも手がけていたことが認められる。したがって、亡はる江は少くとも全産業の女子平均の労働はしていたものと認められる。総理府統計局編・日本労働月報によれば、昭和四二年における企業規模五ないし二九八の事業所の全産業常用労働者の女子の平均賃金は月収二万二、〇四二円であるから、亡はる江の労働能力の喪失も少くとも右の程度に評価されるべきである。

次に、原告らの前記家族構成に鑑みれば、亡はる江の生活費は収入額相当の半額を以て相当と認める。

したがって、一三年間の純利益から年五分の中間利息を年毎のホフマン複式計算法によって控除すると、事故時の現在値は、

22,042円×1/2×12×9.82117137=1,299,089円

ところで、前記過失割合に鑑み、そのうち被告らに賠償せしめるべき金額は一一五万円を以て相当と認める。

(2)  ≪証拠省略≫によれば、原告克己は亡はる江の夫であり、その余の原告らはいずれも実子であることおよび他に相続人はないことが認められる。したがって、原告克己は生存配偶者として、三分の一に当る三八万三三三三円、その余の原告らはそれぞれ子として、九分の二に当る二五万五五五五円の損害賠償債権を相続した。

(三)  原告らの慰藉料

≪証拠省略≫によれば、本件事故により亡はる江が死亡したため、原告克己は次女および長男と別居する二重生活の状態を維持することができなくなり、日立製作所を退職するのやむなきに至ったが、その後原口電機に勤務していること、そして年収も一旦は減少したがその後昇給したので現在は殆ど減収は認められないこと、長女である原告恵美子は前記勤務を止めて母代りに日常家事を担当するに至ったことが認められ、右の諸事情と本件事故の態様、過失割合その他諸般の事情を総合勘案して、原告らの精神的苦痛を慰藉するためには、原告克己に対し一〇〇万円、その余の原告らに対しそれぞれ七〇万円が相当である。

(四)  請求原因第三項の事実は当事者間に争いがない。又、被告らが一〇万円の弁済をしたことも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば相続分に応じて各原告の債権に充当されたものと認められる。

(四)  弁護士費用

以上により、原告克己は(一)ないし(三)の合計一四四万〇四八五円から(四)の一〇三万七五四六円を控除した四〇万二九三九円、その余の原告らはそれぞれ(一)ないし(三)の合計九九万三六五六円から(四)の六九万一六九七円を控除した三〇万一九五九円を被告らに対し請求しうるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行とを委任し、原告らは着手金として一〇万円支払ったほか成功報酬として二〇万円を支払うことを約したことが認められるが、本件訴訟の経緯その他の事情を考慮し、被告らに賠償せしめるべき金額はそのうち、原告克己分四万円、その余の原告ら分各三万円を以て相当と認める。

四、(結論)

よって、被告らは連帯して、原告克己に対し四四万二九三九円、その余の原告らに対しそれぞれ三三万一九五九円および右各金員に対する民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告らの本訴請求を認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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